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盛岡地方裁判所 平成10年(行ウ)1号 判決 1999年8月20日

原告

山崎昭夫

右訴訟代理人弁護士

鈴木欽也

被告

盛岡税務署長 鈴木昭一

右指定代理人

鳥居俊一

粟野金順

高橋一史

多田英臣

福島司

平賀甫

長内邦男

加藤雅祉

山本富夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、平成九年二月四日付けでした原告の平成五年分所得税にかかる重加算税の賦課決定処分が無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件処分

被告は、原告に対し、平成九年二月四日付けで原告の平成五年分所得税について重加算税の賦課決定処分(以下「本件処分」という。)をした。

2  本件処分の無効原因

本件処分は、以下に述べる点で違法であるから、無効である。

(一) 本件処分についての通知書が、原告に送達されていない。

(二) 原告は、事実の隠ぺい又は仮装に該当する行為を行っておらず、本件処分はその理由を欠き、また信義則に反するものである。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は争う。

三  被告の主張(本件処分の適法性)

1  本件処分の送達

本件処分についての通知書は、平成九年二月五日、被告の担当者が原告の住所地に宛てて書留郵便により発送し、平成九年二月一三日、原告又は原告の家族がこれを受領しており、原告に対する送達は完了している。

2  本件処分の理由

(一) 原告は、その所有する別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につき、原告が代表取締役となっている株式会社ヤマザキ(以下「ヤマザキ」という。)との間で、平成四年一二月五日付けで売買契約を締結した(以下「本件売買契約」という。)。

(二) 原告は、その後、本件売買契約を取消しないし合意解除した事実はないにもかかわらず、被告に対し、平成六年三月九日付けで、「今回、平成五年三月一〇日の売買契約書を取り消させていただき、再度、適正なる価額で取引を検討いたしますので、取り消しを認めて下さるようお願いします。」等の文言の記載された「売買契約の取り消しについて」と題する書面を提出すると共に、「譲渡内容のお尋ね回答書」と題する書面に、「平成五年三月一〇日付の契約を取消しました。」等と記載して提出した(以下「本件各書面提出行為」という。)。

(三) 右(二)のとおり、原告は、本件売買契約を取消しないし合意解除した事実はないにもかかわらず、これが取消しないし合意解除によって消滅したかの如く仮装し、譲渡所得が発生していないとして、平成五年分の所得税の確定申告を行った。

このため、被告は、国税通則法六八条一項により、本件処分を行ったものであって、本件処分には理由がある。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1(本件処分の送達)は不知。

2(一)  同2(一)(本件処分の理由)のうち、本件売買契約の日付については否認し、その余は認める。

本件売買契約の日付は、平成五年三月一日である。

(二)  同(二)は認める。

(三)  同(三)は争う。

第三証拠関係

本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実及び被告の主張のうち、本件土地につき、原告とヤマザキとの間で、本件売買契約が締結されたが、同売買契約を取消しないし合意解除した事実はないこと、原告が被告に対し、平成六年三月九日付けで本件各書面提出行為を行ったことについては、いずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実に証拠(甲四、乙一、八、九、一二ないし一五、一六の1ないし5、一七、一八、原告)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  原告は、鮮魚の卸等を業とするヤマザキの代表取締役であり、昭和五九年ころから、その所有する本件土地を社団医療法人鶯宿温泉病院(以下「鶯宿温泉病院」という。)にその敷地として貸し付けていた。

2  原告は、本件土地につき、妻から離婚に基づく財産分与請求権の保全のためとして仮差押えがされることを危惧し、平成四年一二月五日付けで、右土地を五〇〇万円でヤマザキに売り渡す本件売買契約を締結し、平成五年三月一一日付けで、同月一日売買を原因とするヤマザキへの所有権移転登記をし、その後、ヤマザキから譲渡代金五〇〇万円を受領した。

3  被告は、本件売買契約について調査をするため、原告に対し、「譲渡内容のお尋ね書」と題する書面を送付したところ、原告の依頼を受けた税理士が盛岡税務署を訪れて右売買契約の経緯について説明し、その際、同税務署の担当者から右税理士に対し、本件土地の譲渡価額五〇〇万円が時価より著しく低額であり、所得税法五九条一項により時価で譲渡したものとみなされること等の説明がされた。

このため、原告は、被告に対し、税理士を通じて、本件土地の名義を原告に戻す旨の申入れを行った上、本件売買契約を合意解除した事実はないにもかかわらず、平成六年三月九日付けで、「冷静に契約内容を検討したところ、売買金額が雫石町役場による評価額に比較して以上に懸け離れているのに気付き、このまま契約通り手続をしても売主及び買主の双方に種々なる税金問題が生じかねないことが判明しました。そこで、今回、平成五年三月一〇日の売買契約書を取り消させていただき、再度、適正なる価額で取引を検討いたしますので、取り消しを認めて下さるようお願いします。」等の文言の記載された「売買契約の取り消しについて」と題する書面(乙一二)を提出し、またこれと共に「譲渡内容のお尋ね回答書」と題する書面(乙一七)に「別添の『売買契約の取消について』に記載したとおり、平成五年三月一〇日付の契約を取消しました。」等と記載して提出した(右各書面における「平成五年三月一〇日付の契約」とは、原告とヤマザキの間の平成四年一二月五日付け売買契約を指すものと認められる。)。

原告は、本件各書面提出行為により被告に申し出たところに従い、平成六年三月一一日、不動産譲渡所得は発生していないものとして、平成五年分の所得税の確定申告を行った。

4  しかしながら、原告は、その後も、ヤマザキへの本件土地の所有権移転登記の抹消登記手続等、本件売買契約の取消し又は合意解除を前提とした行動をとることはなく、むしろヤマザキにおいて、鶯宿温泉病院との間で右土地を代金一億一九九一万九一〇七円で売買する旨の契約を締結し、平成七年九月二二日売買を原因とし、同日付けでヤマザキから鶯宿温泉病院に所有権移転登記が行われ、また、ヤマザキは、平成六年一〇月一日から平成七年九月三〇日までの事業年度分の法人税の申告において、右譲渡代金から譲渡原価五〇〇万円を控除した一億一四九一万九一〇七円を固定資産売却益として計上し、右法人税の確定申告を行った。

5  被告は、原告の本件各書面提出行為及びヤマザキの会計処理に一貫性がないことから、本件各書面提出行為は原告が自己の譲渡所得に係る課税を免れるために提出したものに過ぎないとみて、原告とヤマザキの間の本件売買契約につき、所得税法五九条一項により譲渡時の時価によって譲渡がなされたものと認定し、また原告が不動産所得に係る収入として申告していた右譲渡時以降の鶯宿温泉病院からの本件土地の賃貸料収入をヤマザキから原告に対する役員報酬と認定し、平成九年二月四日、原告の平成五年分所得税の更正及び加算税の賦課決定決議書の決裁を行った。

6  被告は、同月五日、右決議書と右更正及び加算税賦課決定の通知書(以下「本件通知書」という。)とに「二五六四」と通し番号を付け、文書発送簿の発送月日欄に「9・2・5」と、記号番号順に「二五六四」と、あて名欄に「山崎昭夫」と、件名欄に「平成五年分所得税の更正通知書」と記載した上で、本件通知書が入った封筒を、原告の住所地に宛てて、盛岡中央郵便局において簡易書留により発送した。

盛岡中央郵便局では、配達担当員が右封筒を配達するため原告住所地を訪れたが、家人が不在であったことから、「郵便物保管のお知らせ」と題する葉書を差し置いて右封筒を同郵便局に留置していたが、平成九年二月一三日、原告又は原告の家族が右封筒を受け取りに来たことから、担当者がその者に対し、郵便物を受け取るべき者であることを確認して、配達証に山崎の認印を押印してもらった上で右封筒を交付した。

二  以上の事実を総合すれば、まず、本件処分についての通知は、原告に対して適法に送達されているものというべきであるから、通知書の送達がないことを違法理由とする原告の主張は理由がない。

また、本件処分の理由についても、前述認定のとおり、原告は、本件売買契約を合意解除した事実がないにもかかわらず、被告に対し、これを合意解除した旨の本件各書面提出行為を行い、これに基づいて平成五年分の所得税の確定申告を行っているのであるから、原告の右行為は、国税通則法六八条一項の「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当すると解するのが相当である。そうすると、本件処分には理由があることになり、これが理由を欠き、また信義則に違反すると認めるべき点はないから、これらの点を違法理由とする原告の主張も理由がない。

右のほか、本件処分を違法と認めるべき点はない。

三  以上によれば、原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論の終結の日 平成一一年五月二四日)

(裁判長裁判官 栗栖勲 裁判官 大竹優子 裁判官 大澤知子)

物件目録

一 所在 岩手郡雫石町大字南畑第三二地割字南桝沢

地番 二六五番

地目 宅地

地積 二五七五・五四m2

二 所在 岩手郡雫石町大字南畑第三二地割字南桝沢

地番 二六七番

地目 宅地

地積 二一三一・三三m2

三 所在 岩手郡雫石町大字南畑第三二地割字南桝沢

地番 二七一番一

地目 雑種地

地積 二八六一m2

四 所在 岩手郡雫石町大字南畑第三二地割字南桝沢

地番 二七一番二

地目 宅地

地積 四三七・二〇m2

五 所在 岩手郡雫石町大字南畑第三二地割字南桝沢

地番 二七一番三

地目 宅地

地積 一七四四・〇〇m2

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